職人さんの世界で「体が覚えている」とよく云われるが、ありゃ真っ赤な嘘です。
四十年近くやって来た事も僅か、三年やらなきゃちゃんと忘れます…
現役の頃は、キッチンタイマーやハカリなんか使わなかった。厨房での作業も、瞬間的に頭の中で順番を組み立てて、効率良くキビキビ体が動けた。
すべてが感覚的なもので事が足りていたが、今はダメだな…
夏の暑い日に家で一人、「そうめんを作ろう」と換気扇を回し大きめの鍋に水を入れて火にかける。
お湯が沸くまでの間に、冷蔵庫にあった薬味を切り揃え、そうめんを〆る氷みずを用意しておく。
この簡単な一連の作業で齟齬が起こる…
先ず、薬味の菜切りが間に合わない… 一旦、コンロの火を止める…
そうめんを束ねている帯がすんなり取れない… そして冷凍庫から氷を床に落とす…
コンロに火をかけ沸いた所でそうめんを投入…
菜箸を取ろうとして、近くに置いてある包丁で三十年ぶりに手を切る…
少し血が出たのでバンドエイドを取りに行く… 鍋に入れたそうめんを忘れる…
やり直し… そうめんをもみ洗いし氷みずで〆る…
麺つゆに薄める分を先に少し採って置くのを忘れる…
もう泣きそうになる…
老いたのか衰えたのか…
諸兄、「体は忘れるもの」過信は禁物である。
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