お客様は神様では無い

体験談

小生が30代前半の頃に焼肉店の運営を任されていた時の事。

全40席ほどの焼肉店でキッチンに居たのだが、短時間の間に一気に複数の来店客があり、ホールスタッフは水出しと受注で大わらわ。

仕方なくサロンを外してホールに出た。オーダーを取れていないテーブルに注文を取りに行く。三人組の男性客。一人の初老の男性が、

「ウィスキーはあるか?」

「すみません。ウィスキーのご用意はありません」

「オマエ買って来い!」と言う。

勘違いをしている諸兄も居るようだが、すし店と焼肉店は“ご飯”を食べる店である。酒を主として呑む店では無い。

老舗によくあるカウンターだけの7席~10席のすし店で、ダラダラと酒を呑み、少ない席を何時間も占領されるのは迷惑でしかないのである。

意外に知られていないので、ついでに云っておくと、蕎麦屋は酒を呑む店である。

蕎麦焼酎に始まり、蕎麦がき、板わさ、だし巻き、天ぷらで、〆にザルを頼み、蕎麦湯を飲んで一息ついて帰るのが“粋”とされている。

今は、そんな話はどうでもいい。

厨房では、ホールスタッフが受注した注文が山積している筈である…

その小生に、店から出て車に乗ってウィスキーを買って来いと言う…

どう考えても頭オカシイ…

「ビールか酎ハイのご用意はあるので、何れかでお選び頂けませんか?」

「いやっ、ウィスキーしか飲まない。オマエ買って来い。」の一点張り…

小生がまだ若かりし、30代前半の事である…

飲食店をやっているとこう云う事がままある。些細な事でクレームを付けたり、突然大声で怒り出したり…

社会通念上の“あたりまえ”が解らない人は業態に関係なくやって来る…

既に多くの来客が居り、満席状態。厨房に戻る途中でアルバイトの一人が一部始終を見ていたらしく、「私がウィスキー買ってきます!」と手を挙げてくれた。

繫忙時間帯にアルバイト一人取られ、ウィスキーの値段は一本で五万円と決めた。

会計の際は、文句を云われる恐れがあるので、小生自らが告げに行った。

初老の男性は驚いていた。そりゃそうだわな、バイトに「一番安いの買って来て」と言ったら千円もしないの買って来て、それを五万円なのだから。儲けすぎだわな…

「んっ!…高い…」

「メニューに記載が無いものをご注文されたので、当然、価格も決まっておりません。

忙しい時間帯に、お客様の為に特別にスタッフを一人割いて、ご要望にお応えしました。お支払い頂けないと困ります。」

意識して、優しい口調で伝えた。

そう伝えると、ぐっと何かを言い掛けたが、連れの二人に制止されたのもあり、黙って払って帰って行った。

たぶん、二度と来ないだろう…

非常識な客と云うのは、他のお客さんに迷惑を掛けるリスクがある。二度と来てもらわない方がありがたい。客だからと云って何をしても良いわけではない。

「お客は神様では無く、スタッフは奴隷では無い。」

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