お酒を呑む人と呑まない人

体験談

飲食店をやっていると、昼のランチより夜の営業の方が圧倒的に客単価が高いのが判る。
それは、夜の営業がお酒を伴う機会が多いからである事と、ランチで二千円使うのは抵抗があるが、夕食で五千円は抵抗が無い人が多いのもある。

そして、お酒類は基本的に“注ぐだけ”で手間が要らない。原価率も30%前後で下手をするとフードメニューより遥かに効率が良い。カクテルに至っては、少し手間が入るが一杯30円で出来るものもある。

古い友人が、当時流行りだしたスポーツバーをやると云う。
断っておくが、店は長野県である。
また、金の要る業態を選んだなと思う。

スポーツバーとは、サッカーや野球などのスポーツを観戦するための大型モニターを設置しアルコールやフードを提供するバーである。BSやスカパーなどで異なるスポーツを同時に観戦させるので、普通のバーと違い、複数の大型モニターが必要とされる。当時は1インチ1万円の時代である。WBCや各ワールドカップなどの大イベントの時は全モニターで同じ画面を映し、初対面のお客さん同士が肩を抱き合い一体となり、画面に映し出される試合の内容に一喜一憂して盛り上がる。
長野県にそんな需要があるのかと疑問に思うが…。

そんな事より、古い友人は酒が呑めない。
そんな人が何故バーを???

理由は、そういう居抜き物件が空いたから…「絶対に辞めとけっ!」小生は厳しく止めた。っが、しかし!古い友人は家賃が安いからとか、主要駅のすぐ近くだからとか、全く聞く耳を持たない…古い友人は調理経験が無いので、調理経験がある者を雇い入れるのだと云う。
まぁ、それなら料理人さんのセンスに依っては、可能性はゼロでは無いかな…。

月日は流れ、およそ半年後…長野県で仕事があり、気になったので立ち寄った。

その日は商工会か何かの7名の予約が入っていた。古い友人は、売上が悪くどうにもならない。人も雇えない状態なので、商工会のメンバーに無理くり予約してもらった。いわゆる予約の押し売りだ…。

予約客から少し離れたカウンター席に座り、フードメニューを見せてもらう。

〇サンドウィッチ類数種
〇パスタ類数種
〇鶏のから揚げ
〇フライドポテト
〇カレーライス
〇シーフードピラフ

昔の喫茶店?…カレーライスと云うのが、バーである店では何ともシュールな。

古い友人がせわしなく予約客のドリンクを運んでいる。
料理人さんは、厨房から出てこない。
少しして、古い友人が厨房から大皿を抱えて出て来た。
なるほど、人が居ない時は大皿料理に限るな。あとは小皿を出せば良いだけ…っが、乗っている大皿料理を見て驚愕した!てんこ盛りのケチャップパスタサラダである!

一皿目にこれ???
続いてもずっと大皿で全品鬼盛りが続く…。

〇ポテトサラダっ
〇ブロッコリー茹でただけっ!
〇鳥のから揚げっ(多分、業務スーパーで売ってるヤツ)
〇ウィンナー茹でただけっ!
〇出たっカレーライス!(これは流石に個皿出し)

これで一人幾ら貰っているのか怖くて聞けなかったが、これじゃまるで高校生の部活の合宿である…センスをまったく感じない…。

全ての料理(?)を出し終えて料理人さんが厨房から出て来た。見た感じ40前位で少しデブ。コックコートは真っ黒に汚れてる。髪は頭皮に張り付いており、ほぼ間違い無く不潔君…古い友人に云われたのか、小生に挨拶をしてきた。しかし、この献立をお客さんに提供できる神経が素晴らしい…中々出来る事では無い。

ひょっとしてと思い聞いてみると、料理人さんも酒が呑めないらしい…酒を飲めない二人が酒を提供する店をやっている…あり得ん…。

予めお断りをしておくが、これは小生の個人的な見解である。
酒を飲めない人は酒を呑む人の思考が判らない。だから欲しい食べ物も解らない。また、酒を飲めない人は比較的、酒を呑む人と比べ、食に対して貪欲ではない人が多い様な気がする。料理人さんも酒が呑めないが、古い友人も吞めないので、酒飲みが喜びそうな指摘提案が何も出来ない、ただただ赤字帳簿を眺める日々…本末転倒である…。

アドバイスを求められたが、そんな気になれない。
小生が帰った後、二人は話し合い閉店に至った。
オープンから僅か4ヵ月である。
小生が知る上で、過去最速の閉店である。
この記録は現在も塗り替えられていない。

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