取引先と打合せで、皆もよく知る全国チェーンのファミリーレストランで待ち合せ。
約束の時間は15時だったが早めに着いたので、採り損ねた昼食をと思い“スパゲティ”の何かを注文した。
少しして、髪の長い若い女性が鉄板パスタを持って来る。
テーブルに置いた途端にその女性のモノと思われる髪の毛がパスタにのっているのを発見…
周りの客に気づかれない様に、そっと小声で髪の毛を指さし指摘すると。
「今朝、シャンプーしたばかりだからキレイです!」っとキレられた…
予想だにしてなかった思わぬ反撃に言葉を失い、口があんぐり…
そしてその女性は、ガタンッとパスタを置いてツカツカと戻って行った…
接客業に向いていない。いや人間に向いていないのかもしれない。
どの時代にも、こういった子が一定数は居るのである。
これから世間の強い風にあたり、角が取れて丸く治まれば良いのだがと思う。
小生が教師に飛び蹴りをして飲食の世界に入ったのは15歳の時である。
もう40年前の話になるな…
15歳と云えば、未だあそこの毛が生えそろったばかりのジャリである。
世間を知らず、仕事に対しての考えも何も無い。別に料理人を夢見ていた訳でもなく、ただ、人の紹介で大阪の割烹料理店に見習いで入っただけ…
当時、15歳ではこの仕事しか無かったのが現実かな…
初日はオーナーの娘さんが案内してくれて、更衣室で白衣に着替え、板場に移動する。
板場では開店の準備で、先輩たちがせわしく動いている。たしか8人位は居たと思う。
娘さんが小生を板長に紹介する。
「よろしくお願いします。」
「…………」
完璧なシカト…
口もきいてもらえない…
当時の板場は封建制度が厳しく、“完全な縦社会”であった。
それから、何をしたら良いかもわからずで、板場の隅でずっと立ってる…
板場の中を走り回る先輩たちの邪魔にならない様にと思い、位置を変えていると、知らぬ内に物置の前で立ってた。
誰かに話しかけられたり指示をされる事無く、ただただ、ずっとそこに立ってる…
気が付くと朝の五時半から昼まで、ずっと立ちっぱなし…
学校でもよく廊下に立たされたが、何時間も連続で同じ場所に立ちっぱなしはかなりキツイ。
突然、昼過ぎに先輩の一人が、片手にかつ丼を持ってツカツカとやって来る。
「食え…」
初日に七時間以上も板場に居て、始めて掛けられた言葉がこれだけ…
これはキレて帰ってもいいのではないかと思った。
しかし、住み込みでの見習いなので、帰るところも無くなる…
15歳にしてホームレス… こんなトホホな事は無い…
ぐっと堪え、先輩に「割り箸ください…」 泣きそうになった…
先輩は、無言で割り箸が置いてある方を、あごでくいと指して去って行った…
今にして思えば、通過儀礼の一つだったのだな。二か月ほど後に入って来た、関西の某有名調理師学校を卒業した、小生より四つ上の人も同じく立たされていたが、
昼前に「便所に行ってくる」と言い残したまま、二度と帰って来なかった…
かつ丼を食べ終えた午後からは、ランチの繁忙時間帯が終わった直後なので、洗い場に客から下げた食器が山積みされてた。
自然と洗い物をしてたな… 放置システムは良く出来てる…
幾日かして、少し慣れて来た頃。かつ丼先輩が酒を奢ってくれると云う。
15歳のジャリにである…
(今なら大変な事になるだろうが、大昔の事なので、もう時効だろうな…)
酒の味が判る筈もなく、「酒が呑めたら大人!」ぐらいしか思っていない。
連れていかれたのは商店街の一角にある、二階が住居で一階が店舗になってる昔ながらの場末のスナック。
後で気付くのだが、どうやらかつ丼先輩はこの店のママに横恋慕らしい。
後輩に酒を奢る良い先輩… そんな所をママに見せたくて小生は呼ばれたようだ。
だから、酒が入ると説教じみた話ばかりになる。
くだらない話ばかりだったが、今も小生のココロに刺さる言葉が一つだけあった。
この一言で小生は仕事に対しての考え方が一変した気がする。
また、この言葉を今まで後進の人達に何度いったか数えきれない。
その言葉とは、
「仕事は言われてやるのはダサい。言われる前にやらないと。探せば仕事は必ず有る。」
ここで言う仕事とは、“仕込み”の事である。
所謂、「今やらないといけない事、やる事は絶対に有る」と云う事である。
僅かな人にでも、刺激になれば嬉しく思う。
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